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10.暗殺計画
グリヴァスは、猪突猛進型のずんぐりとした魔獣を正面から片手で受け止めた。
「グギャア!」
魔獣の鋭い歯列の隙間から、おかしな声が漏れた。
「ギギギギッ」
魔獣は、尚も四肢に力を入れて前に進もうとする。だがぴくりともしない。
「邪魔すんなよ」
その言い分は魔獣も同じであったが、競り勝ったのはグリヴァスの方だ。
ボッ!!
魔獣の身体に火がついた。あっという間に燃え盛り、魔獣を肉塊にした。
内臓まで燃やされ命を失った魔獣は、ばったりと倒れた。周辺の草がちりちりと燃えていた。
プシュー!! と、何処からか水が噴き出し、燃えていた草の周辺に雨となって降り注いだ。地面から、幾筋も木の根が出て来て魔獣を地中に引き込んだ。周囲は一見して、何事も無かった様になった。
グリヴァスは、不満げにヴォーグルを見た。
「あいつは何処だよ!」
傍で高みの見物をしていたヴォーグルが、肩を竦めた。
「さあ、リアが森に入った所までは情報が入ってるんだが。何しろ魔の森は深くて広い」
ヴォーグルは、魔の森における高学年の課題をニ度クリアしているが、それでも年一でしか入らない魔の森に関して知らない事は多かった。
――死んだ者は森の養分になるとは聞いていたが、まさかあんな風に取り込まれているとは知らなかった。ここは正に暗殺にうってつけの場所だ――
死体を森に取り込んでもらえば、後は魔獣がやったと言い張れる。死体は見つからないので嘘はバレない。魔王の恨みを買う事も無く、目障りな魔王候補を減らせる。
ヴォーグルは、以前に一度、リアを殺そうとしたことがあった。まだ小さかったリアは、まさしく赤子の手を捻る様に殺せそうだった。その時、急に身体が動かなくなった。見るとリアの目が煌々と金色に輝いていた。
ヴォーグルは、その時の事を忘れられない。
いつ、リアが目覚めるのか。
手も触れずに自分の身体を動かなくさせた。どれ程の魔力を備えているのか見当もつかない。ヴォーグルは、内心でいつも戦々恐々としている。
機あらばリアを殺したい。むしろ最もそう思っているのはヴォーグルだった。
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