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「そのへんにしとけよ」
四魔王子の一人、銀龍族の母を持つ、黒髪、銀の瞳の魔王七番目の息子、ヴァイバーが言った。涼し気にグリヴァスを見る。
「マジで殺したら、こっちが殺される」
グリヴァスは、不満気ながらも動きを止め、リアの顔から足をどけた。
リアは、やっと息が出来る様になった。荒い呼吸をし、鼻から喉に入った血でむせる。
「ゲホッ」
咳き込んで、身体を下に向けて血と砂利を吐き出した。息が苦しかった。
呼吸を整えているそばから、グリヴァスに髪の毛を掴まれ、引き揚げられた。
「あぅっ!」
グリヴァスは、陰湿な目でリアを見て、薄笑みを浮かべた。
「おい、リア、お前に使命を与えてやるよ」
「グリヴァス」
ヴァイバーが、止める様に声を掛けるが、
「殺しゃしないんだ、良いだろ」
グリヴァスが、面白そうに答えた。リアの耳元でささやく。
「この学園の地下に、竜王の骸があるんだとよ」
リアは、朦朧とした意識の中で、聞いた言葉を思い返す。
――リュウ、オウ、ノ、ムクロ……?―――
「竜王族は神の眷属だったが、大昔に地に墜ちてこっち側になった。覇権を争い魔王と戦ったが勝てず、滅んだ」
――ホロンダ……?――
今まで涼し気な顔をしていたヴァイバーが、かすかにいら立ちを顔にあらわした。竜王族と銀龍族は、縁の近い種族だった。ヴァイバーにとって気持ちの良い話ではない様だった。
「噂によると、竜王の鱗は、鍛える事によって最強の武器になるらしい」
「馬鹿馬鹿しい。鱗なんか、誰がどうやって鍛えるんだ」
ヴァイバーが、呆れて言った。
「竜王の鱗はその時点で鋼の様に堅いと聞く。場合によっては、人間の技術で作れるんじゃないか? アレが」
ヴァイバーと、残りの四魔王子の二人が色めき立った。
「まさか……」
「でも、出来るとしたら……」
三人が、顔を見合わせた。
その様子を満足気に見ていたグリヴァスが、リアにささやく。
「お前が取って来るんだよ。そしたら、卒業するまで、もう何もしないでやるからよ」
「ホ、ホント、ニ……?」
リアが、うわごとのように呟いた。
グリヴァスが、にやりとする。
「ホントさ。俺たち兄弟なんだからよ。仲良くやろうぜ。だがその為には、お前は俺に忠誠を誓わないといけない。分かるよな」
低い陰湿な声が、リアの脳を侵食するかのように響いた。
リアは、
「ワカ……ッタ」
と、呟いた。
グリヴァスは、用は済んだとばかりにリアの頭を投げ出した。リアは、うっと呻いて倒れ込んだ。
グリヴァスは、立ち上がると冷たくリアを見下ろす。
「しっかり働けよ、リア」
リアは、倒れたまま動かなかった。
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