act.1

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「オーベルジュとは郊外にある宿泊もできるレストラン……」 柾冬のマンションのリビングで綾はスマホを片手にオーベルジュのことを調べていた。 ソファに深く座った柾冬の腕の中で、綾は熱心にスマホの文面を読んでいる。 「何着ていけばいいの?」 「君は何を着ても可愛いよ」 腕の中の綾のサラサラの髪に指を絡めながら柾冬がそう言って笑う。 「……バカ」 「稲見が言うにはオーベルジュ(まき)さんは気軽に料理を楽しんでもらう、がコンセプトのお店だから堅苦しいドレスコードはないって」 「そうは言っても失礼があっちゃいけないじゃない。深雪さんに恥かかせたくないし」 それを聞いて柾冬は目を細めた。 「綾、優しい」 「もう……真面目に……」 そこで柾冬は綾を自分に引き寄せ、唇に軽くキスした。 「じゃあ、服見に行こう」 「うん」 素直に頷いた綾を見て柾冬は嬉しそうに笑った。 「なに笑ってんの」 「君と外でデートなんて嬉しくて」 「デートって……」 綾は柾冬の嬉しそうな顔を見て怒る気を失くして苦笑する。 普段のふたりといえば柾冬のマンションで食事して、リビングのソファでゆっくりNatflix を観たり、本を読んだりがほとんどで外に出かけることはない。 綾が出不精なのと、人混みが嫌いなのと、外食より柾冬が作る料理が好きなせいだ。 ただ、今回に限っては最近親しくなった深雪からのご招待なので話は別だった。 深雪は柾冬の親友、稲見の恋人でフレンチのシェフをしている。 親交のあるオーベルジュ槙のオーナーシェフからの依頼で、ゲストシェフとして深雪が厨房に入ることになっているのだ。 「俺ひとりじゃ時間を持て余しちまうからさ、おまえたちが来てくれるなら助かる。なにより深雪がぜひふたりに自分の料理を食べて欲しいって言ってるし」 と稲見からも言われていた。
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