act.6

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それから間もなく綾は住んでいたマンションを引き払い、柾冬の部屋に引越してきた。 と言っても綾が持参した荷物は衣類が少しと学校で使う勉強道具や制服くらいで、段ボールにして3箱ほどしかなかった。 そもそも綾の部屋にはベッドとソファと小さなテーブルくらいしかなかったし、柾冬のマンションにしょっちゅう泊まるようになってからは少しずつ自分の着替えや生活用品を置くようになっていたからなおさらだ。 同棲を機に綾はすべての家具を処分し、ほぼ身ひとつで柾冬のマンションにやってきた。 ウォークインクローゼットに綾の衣服や身の回りの品を置いても全く場所をとらず、学校の勉強はリビングのテーブルで済ませ、夜はひとつのベッドにふたりで眠る。 同棲を始めたと言っても柾冬の部屋に特に目立った変化は見られなかったが、それでも洗面所に並んだふたつの歯ブラシや、クローゼットの片隅に綾の制服が掛かっているのを見るにつけて柾冬は癒され、幸せを感じた。 毎朝目覚めるたびに腕の中で眠る綾の寝顔に見惚れ、自分より先に部屋を出る綾の制服姿を見て歓喜する。 仕事から帰って玄関を開けると綾が出迎えてくれる。柾冬はそれが何より嬉しかった。 一緒に食べて、一緒に眠って、毎晩のように愛し合う……。 「……幸せ過ぎて目眩する」 柾冬は前にも増して帰るのが早くなり、さらに仕事を家に持ち込まなくなった。 一瞬だけ職場の飲み会に参加したものの、再びつき合いが悪くなった柾冬に同期の清水が声をかけた。 「恋人と順調のようだな」 「最近一緒に暮らし始めたんだ」 それを聞いて清水は目を見張る。 「どうりで毎日ぶっ飛んで帰るわけだ」 「当分飲み会どころじゃない」 「なるほど」 清水は最近一段と男っぷりがあがった柾冬をじっと見つめながら言う。 「将来を考えてたりするのか?」 「一生離したくないと思ってる」 即答する柾冬に清水は目を丸くする。 「……おまえがねぇ」 しげしげと自分を見つめてくる清水に対し、柾冬は柔らかい微笑で応えた。 不覚にもその笑みにドキッとさせられた清水は、プイッとそっぽを向いて乱暴に言い放った。 「馬鹿野郎、おまえなんか幸せボケで仕事ミスっちまえ!」
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