act.1

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大惺がまだ開店前の店に足を踏み入れるとカウンターから賑やかな声が聞こえてきた。 「だからそれ、ダメだって」 「え?これじゃない?」 「アヤ、さっきもそれ引いたじゃない」 深雪と綾、そして唯夏がカウンターの上に散らばったトランプで神経衰弱をしているのだ。 「アヤ、弱〜」 深雪が綾を指さして笑うと唯夏もつられて笑った。 綾だけが納得いかない顔をして首を傾げる。 大惺は珍しい組み合わせの3人を見て目を細めた。 「あ、大惺」 ふたりより先に自分に気づいて笑った綾を見て、大惺はその自然な笑顔に目を奪われた。 「おう」 綾の頭をポンと撫でて大惺はバックヤードに下がった。 「あいつ、ずいぶん柔らかく笑うようになったな」 少し遅れて裏にやってきた唯夏はうんうんと頷きながら言う。 「門倉さんにめちゃめちゃ大事にされてるのがよくわかるわね。あと、最近深雪くんと仲良くなってさらによく笑うようになったかな」 「ああ、あの人か」 「あのふたりが笑い合ってるの見ると、なんかすごく尊いものを見てる気分になるのよね」 「確かに。ただ、どう見てもアヤの方が歳上に見えるけどな。で?あのふたりのはどうしたよ」 保護者という単語を聞いて唯夏は笑った。 「稲見さんと深雪くんは待ち合わせしてるらしいけど、アヤと門倉さんはべつに約束してるわけじゃないみたいよ」 平日の8時過ぎ、裏で勉強をしていた綾は店が混んできたタイミングで帰り支度をしてバックヤードから出た。 カウンターで唯夏と馴染みの客と話し込んでいた大惺は綾を見て声をかけた。 「帰るなら送る」 席を立とうとした大惺に綾が言う。 「コンビニと本屋寄りたいから歩いて……」 その時、コツコツとやたらうるさいヒールの音とともに甲高い女性の声が聞こえてきた。 「柾冬!柾冬ってば待ってよ!」 そして店の入り口のドアが開くと、ひどく怠そうな顔をした柾冬と、その腕に絡みつくようにして歩く女性が姿を現した。
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