act.6

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大惺がバックヤードを覗くといつものように綾が学校の宿題をしていた。 もともと成績が良い方だが最近では前にも増して熱心に勉強しているように見える。 「一生懸命ベンキョーして偉いな、おまえ」 そう言って大惺はテーブルの隅にコーヒーが入ったマグカップを置く。 「ありがと大惺」 綾は柔らかに微笑むとマグカップに口をつけた。 「……熱っ」 思ったより勢いよく角度がついてしまい、熱いコーヒーが一気に口に入り、綾は顔を顰めた。 「バカ、猫舌のくせに」 大惺は隣に座り、綾の顎に長い指をかけて上向かせた。 「舌見せてみ」 綾が舌を出すと大惺はそれに自分の舌を絡めてチュッと吸い上げた。 チリっとした痛みに綾は思わず目をつぶる。 「……痛ッ」 「舐めときゃ治るだろ」 「なにそれ。もう、いきなり……」 「ちゃんとフーフーしろよ。待っててやるから」 鋭い瞳を柔らかく細めて大惺は大きな手で綾の頭をポンポンと撫でた。 それから綾はちびちびコーヒーを飲みながら勉強を続けた。 大惺はその横でソファにふんぞり返ってマンガ雑誌を読んでいた。 綾が宿題を終えると大惺が車で送ると言って立ち上がる。 ひとりで帰れると言っても大惺は聞かない。 自分がいる時は送る。それが柾冬との約束なのだという。 「もう、過保護なんだから」 綾がそう言うとハンドルを握ったまま大惺は小さく笑う。 「唯夏もおまえのことちゃんと送っていけってうるさく言うぞ。あと、クソ親父もな」 「……全員過保護とか」 「おっと……危うくおまえのマンションに行っちまうところだった」 言うなり大惺はハンドルを切って車線変更をした。 「まだ慣れないな。門倉邸に行かなきゃダメなんだった」 「うん。俺もまだ前の家に帰りそうになる」 嬉しそうに笑う綾を見て大惺は進行方向を見たまま頷いた。 「2人暮らしはどうだ?」 「すごく楽しい」 「そりゃあ良かった。門倉さんの手料理のおかげで肌艶いいもんな」 そこまで言ってから信号待ちで停車した時に大惺は綾を見てハッとする。 「そっか、家に宿題を持ち帰りたくないから頑張って店で終わらせてたのか」 「…………」 綾はそれには答えず、大惺から目を逸らす。 「おっまえ、可愛いなぁ」 「……大惺、黙って」 大惺は声に出して笑いながら綾の黒髪をわしゃわしゃ撫でた。
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