act.6

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いつもは柾冬が玄関前に着いて鍵を出そうとする音と気配を察して綾が出迎えてくれるのだが、今日は様子が違った。 ただいまと声をかけながら柾冬が玄関を開けると廊下の先のリビングに灯りがついているのが見えた。 リビングのドアを開けると、綾はソファに丸まって眠っていた。 普段から寝つきが良いが、もの凄く深く寝入る時があり、そういう時はちょっとやそっとの物音や、優しく揺さぶったくらいでは起きない。 学校では体育の授業もあるし、ここ最近の環境の変化による疲れもあるかもしれない。 柾冬は自分に対して安心し切って無防備な姿を見せてくれる年若い恋人が愛しくてたまらない。 小声でただいまと言うと、綾の体の上にお気に入りのカシミアの膝掛けをかけてやり、艶やかな黒髪にそっとキスした。 日常の中のこんな瞬間がなによりの幸せだということを、綾が教えてくれた。 仕事でどんなに疲れても、嫌なことがあってもこうして綾の寝顔を見れば一瞬で吹き飛んでしまう。 柾冬は会社帰りにスーパーに寄って買ってきた食材をキッチンに運び、着替えを済ませると食事の支度にとりかかる。 最近では綾が学校から帰ったタイミングで雑穀米を研ぎ、炊飯予約をしてくれているのでとても助かる。 ずっとひとりで暮らしてきた者同士、互いの存在に救われることは多い。
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