act.6

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逆にひとりでいる期間が長かった分、柾冬はこれまではいかに恋人といえど、自分のパーソナルスペースを侵されることや、生活リズムを乱されるのが嫌で、今まで誰かと同棲をしようと思ったことは1度もなかった。 綾だけは例外だ。 いっ時も離れたくないし、離したくない。 朝も昼も夜も、彼を抱きしめていたいと思うし、何度でもキスしたい。 毎日見ていても飽きないし、毎日見ているのに見惚れてしまう。 「まるで嫁に甘々メロメロの新婚(おっと)みたいだな」 稲見はそう言って呆れながらも少し羨ましがっている節がある。 「おまえも深雪くんと一緒に暮らしたらどうだ?」 柾冬が何気なくそう言うと、稲見は悲しそうな顔で一言呟いた。 「以前断られてる」 意外な答えに柾冬は目を丸くする。 「理由は?」 「バカになっちゃうからだって」 「バカ?」 「同棲なんかしたら毎日毎日飽きもせずに抱き合って、四六時中俺のことばっかり考えて、料理の仕事なんかどうでもよくなっちまうから、ダメだって」 いかにも深雪が言いそうなことだ。 「可愛い理由だな」 「そうだよ、可愛いんだ。俺だって深雪と毎日一緒にいたい。おまえが羨ましいよ、門倉」 ーーバカになる、か。 自分はどうなんだろう。 キッチンに立ち、手際良く料理の準備をしながら柾冬は考える。 ーーすでに手遅れだったりして。 まぁ、バカになっていたとしてもふたり一緒ならそれもいいと思った。 新婚とか同棲したてなんてきっとどこも似たようなものだろう。 むしろ今バカにならないでいつなるんだ。 綾がどう思っているかはまた別の話だが。 柾冬はキッチンからソファで眠る恋人を見つめながら目を細めた。
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