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「幼馴染、強ッ」
深雪が小声でそう呟くと稲見もうんうんと大きく頷いた。
「さっき職場から出たところを強襲されて……うちに泊めろの一点張りで……そんなの絶対ごめんなので、とりあえずここまで逃げて来たんですが……」
『強襲』という単語に柾冬の苦悩が窺える。
大惺は「ああ……」と同情するような目で柾冬を見た。
「理華、おまえ、いつ日本に来たんだ?まさかおばさんに黙って出てきたんじゃないだろうな」
柾冬がそう言うと理華は再び唇を尖らせながら答えた。
「ママも一緒よ。仕事だもん」
それを聞いて柾冬は少しホッとする。
「なら良かった。おばさんに迎えに来てもらおう」
「嫌よ!帰らない。柾冬といたいのよ!」
どこまでもストレートで容赦ない物言いに、柾冬だけでなく、そこにいた全員が気押される。
「せっかくいらしてくださったんですから、1杯飲まれては?」
カウンターの中から神代が穏やかな口調でそう言うと理華はとびきりの笑顔で答えた。
その笑顔は見るものをハッとさせるほど華やかで魅力的だ。
そう、笑ってさえいれば。
「ありがとう。じゃあ、モスコミュールを」
「かしこまりました。門倉さんはいつもので?」
神代の言葉に柾冬は観念してお願いしますとだけ答えた。
カウンターの真ん中に理華が座ったところで柾冬は綾のもとに行き、囁いた。
「騒がしくてすまない。あいつのことはなんとかして巻いて帰るから、裏で待っててって言ったら怒る?」
綾はこちらを向いている柾冬の肩越しに理華を見た。
理華は嫉妬心むき出しの目で綾を睨んでいる。
大惺と唯夏、稲見と深雪はハラハラしながらその様子を見ている。
綾は涼しい目で悠然と構えたまま理華に聞こえるように答えた。
「いいよ。あんたがそう言うならいくらでも待っててあげる」
「ありがとう」
柾冬がホッとしてそう言うと、綾は理華の目を見たまま柾冬の肩に手を置き、艶っぽく微笑んだ。
それを見た理華が怒りで顔を真っ赤にすると、綾はさらに柾冬の耳元に何やら囁き、見つめ合ったあとゆっくりした足取りでその場を後にした。
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