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「……あいつ堂々とケンカ吹っかけたな」
事の成り行きをハラハラしながら見守っていた大惺がそう言うと、その隣で唯夏が頷いた。
「意外。アヤがあんな態度とるなんて」
「まぁ、ムカついたんだろ。あっちのあからさまなガンたれに」
「門倉さんのことになると、アヤってあんな風になるのね。それにしてもさっきのアヤ、ゾクゾクする程綺麗だった」
唯夏の言葉を聞いて大惺はバックヤードの方を見ながら笑った。
「やるなぁ、あいつ」
「さて、女王様がどう出るか、ね」
「そりゃあ、黙ってないだろうな」
カウンターから少し離れたボックス席で、稲見と深雪も声をひそめて囁き合う。
「アヤ、負けてない!」
「門倉……気の毒に」
「俺、あんなおっかない幼馴染、嫌だよ。とても太刀打ちできない」
深雪がそう言うと稲見は苦笑した。
「まぁ、普通はあれだけ迫力のある美女に凄まれたら、尻尾巻いて逃げ出すよな。けど、彼も負けず劣らずの美人だから……」
「黙って門倉さんを渡すわけにはいかないもんね!さすがアヤ!」
皆が密かに綾に対して賛辞を送るなか、当の本人は慣れないことをして疲れてしまい、バックヤードのソファに倒れ込んでいた。
とにかく理華が柾冬、柾冬と連呼しながら彼に纏わりついているのを見たら腹が立って仕方なかった。
初めての感情に揺さぶられ、身体の奥から湧き上がってくる訳の分からない衝動を抑えられなかったのだ。
「……疲れる」
綾は帰ろうとして先ほどリュックにしまった参考書を再び広げてはみたものの、とても集中できそうにない。
「さっきは頑張ったな」
バックヤードの扉を開けて大惺が姿を現すと、綾は複雑な顔をして呟いた。
「……あの女、嫌な感じだったから」
「確かに」
「門倉さんにベタベタして、こっち睨んできたりして……ムカつく」
それを聞いて大惺は内心驚きを隠せなかった。
何に対しても消極的で、何にも執着したことがない綾が口に出してそんなことを言うのは初めてのことだからだ。
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