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 四月、三年に進級した僕たちはもう始業式から一週間が経過していた。オクラや宵谷ネハンともまた同じクラスだし、七割くらいは見知った顔だった。  しかし、そもそも顔を覚える必要はない。相手の顔や声を認識すればマイクロコンピュータがデータベースから参照し、情報を提供してくれる。  教室の前方の壁を占めるスクリーンの前に男子生徒が立っている。マイクロコンピュータは彼とは初対面であると知らせている。 「遠路はるばる転校してきました、軽木(かるき)モウタ言います、よろしゅう頼んます」  軽木モウタはそんな、する必要のない自己紹介をした。名前はデータベースからわかったし、表情は『親愛』で仲良くなろうという意思は充分に示せていた。  その日の放課後のこと、僕たちはいつものように旧校舎でアンドロイドを弄っている。基本的な発声はすべてクリアし、音程の安定感も抜群と相成って、あとは声質だけという段階だった。  プログラムを用いて息の通し方を変え、共鳴する位置を変えたり、息の量そのものを変えたりしてみたが、望む声質にはならない。  鼻腔そのものを狭くしたり、骨格まで変更していかなければならないだろう。ここからはオクラの出番だ。 「なんや、おもろそうなことしてるやん」  出し抜けに声がした。  見ると軽木モウタが立っている。 「…………!」 「なんや、そない驚かんでもええやろ、幽霊でも見とんとちゃうやん」 「なんでこんなところに……?」 「せやな、ふつうは用なんかあれへんわな――転校初日やし、探検したろって校舎回ってたら、変な電波、拾ってな。なんやろ、思って来たら、こんなんしててんな」    
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