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五月になっていた。
ゴールデンウィークに学校に忍び込んで僕たちは作業する。モウタは週に一、二度、僕たちに付き合っていた。平時は新聞部に所属し、スクープ探しに血道を上げていた。
そんな彼は一週間で宵谷ネハンの首から上の情報をすべて入手してみせた。首回りのサイズから鼻腔の広さ、頭蓋骨の大きさに至るまでだ。
どうやったかは聞かないほうがよさそうだったが、予想はできる。医療カプセル利用時のデータを盗みでもしたのだろう。
街中に点在する医療カプセルは縦型で、体調が悪くなれば人はそれに入る。ものの数分でデータを取られ、AIが適切な薬を処方してくれるし、場合によってはマニピュレータが注射さえしてくれる。
だが、それすら必要のない人間がいる。
僕を含めた一部の人間は体内のナノマシンが、体調を悪くする前に管理してくれるのだ。
人の手による健康診断というものは存在しなくなった。
――眼前のアンドロイドが歌っている。
骨格のデータを受けて、響きは近くなっているような気がする。だが、なにかが違う。足らない。
「そういや、」
頭をひねる僕の隣から声がする。
「資金はあるんやろ? こないなとこで、こそこそやるくらいなら製作場所に部屋でも借りたらええやんけ」
モウタが問うた。僕は答える。
「甘いなモウタ。このほうが『それっぽい』じゃないか」
束の間の沈黙のあと、あっはっはと笑う声がする。
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