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旧校舎の幽霊についての噂はめぐりめぐって僕の耳まで届いていた。
とある女子生徒は五十年も昔に、当時は使われていた音楽室で首を吊ったそうだ。彼女は将来を嘱望されたピアニストであり、貧困に喘ぎながらもそのピアノの才を音楽教師に見いだされ特別にピアノの使用許可を得ていた。
音楽教師は他の生徒そっちのけで彼女の指導に付きっきりとなる。
だが、スランプは訪れた。運指に乱れが生じ、演奏に冴えがなくなり鈍くなっていく。
それでも彼女は音楽を好きだった。
彼女には歌う才能もあった。
狂いだした歯車に焦っていたのは音楽教師のほうだった。
ひと休みして歌っていた彼女を音楽教師は叱責した。そんなことをしている場合ではない。弾けない貴方は無価値だと椅子にくくりつけ、飯も摂らせず拘束しつづけた。
何十度目かのミスに音楽教師はピアノのカバーを叩きつけるように閉じた。
十本の指が千切れ飛び、血液は鍵盤をまばらに赤く彩った。
その日、彼女はカーテンで首を吊った。
夏季休暇が始まって間もないころだと記録されている。
それ以来、旧校舎には時折、彼女の歪になってしまった歌声が響いているのだという。
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