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「おやおや……大事な書架部屋に誰ぞが入り込んだと思ったら……お前だったのか」
「お爺ちゃん、シーっ」
重厚なオークの書見台の下に蹲っていたボクは、お爺ちゃんを見上げて口元に人差し指を立てた。
廊下を走ってくる複数人の気配と話し声。
「午後の課題をサボってここへ来たのだな」
呆れたという仕草で肩をすくめて見せたお爺ちゃんは、扉へチラリと目をやると、ローブの裾を翻してボクを促した。ボクはすかさず丈長で分厚いローブの内へもぐりこむ。
と、慌ただしく扉を叩く音が響いた。
「失礼いたしますっ! アルク様がこちらへいらしていないかと改めさせていただきたく!」
続いてどやどやと複数人の足音がした。
ボクはお爺ちゃんの痩せた脚にギュッとくっ付いて息を殺す。
「ふむ。ご苦労だな。……貴奴の勉強嫌いにも困ったものだ」
ローブ越しのくぐもった声でお爺ちゃんの苦言が降ってきて、ボクは気まずさに益々縮こまる。
書架部屋は広い。暫くの間、足音の群れはボクの直ぐ側にまで近付いて来たり、遠ざかったりした。
「先程庭園でちょっとした騒ぎがありまして、……そちらに手を回しているうちに、アルク様に逃げられました」
「ほう……」
お爺ちゃんは適当な相槌を打ってやり過ごしている。
足音たちは書架部屋の隅々まで見てようよう納得したようで、やっと部屋から出ていった。
「……はぁ……助かったぁ。お爺ちゃんありがとう」
ボクはローブの裾から顔を出した。
「庭園で……何があった?」
「ん?」
見上げると、鼻眼鏡の奥の優しい眼差しがボクを見下ろしていた。
「蜂が……蜜蜂が、噴水んとこの石像にたっくさん集ってきて、お茶会してたお姉さまたちが大騒ぎになってね。みんなそっちに行っちゃったんだ」
「なるほど……分蜂か」
お爺ちゃんは深く頷いた。
「ぶんぽー?」
「ああ。蜜蜂の引っ越しだ」
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