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ボクのお爺ちゃんは物知りだ。
沢山の本が並ぶ書架に囲まれて、いつも難しそうな本を読んでいる。貴重な本が傷まないように北向きに設えてあるこの部屋は、庭園のある南側とは反対にあるので先程の騒ぎをお爺ちゃんは知らなかったらしい。
背の高い書架から赤茶色の背表紙の分厚い本を取り出したお爺ちゃんは、ボクを従えて北向きの窓辺へ移動した。
「分蜂中の蜜蜂はな、お腹に引っ越し荷物を抱えておるから大人しいものだ」
「引っ越し荷物? 蜂の荷物って、何?」
「主に、『蜜』じゃな。よい引っ越し先を見つけたらそちらへ行くので、むやみに触れず放っておけばよい」
窓に面した文机に分厚い本を置くと、皮張りの表紙を開いて淡いクリーム色の羊皮紙をめくる。ボクの目の前に精緻で色鮮やかな虫たちが現れた。
「世の中には知ってさえいれば恐るるに足らぬことは沢山ある。また、知らぬがゆえに罪深いことになることもな」
「罪深いコト?」
お爺ちゃんはボクを見下ろして優しく微笑んだ。
「おいでアルク。温かい茶でも飲みながら、儂の昔話を聞かせてやろう」
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