ゴブリン・蜜蜂・謎の呪符

3/6

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 その村の側には、ゴブリンどもが住む大きな洞窟があった。  洞窟周辺の土地は大変豊かで、ゴブリンどもさえいなければ暮らしやすい土地であったため、村人たちは町のギルドに頼んで折々に勇者を募ってはゴブリンどもを洞窟の奥へと追いやってもらっていた。  時に集団で村を襲ってくるゴブリンの存在は鬱陶しいコトこの上なく、どうにかならぬものかと村人誰もがそう思っていた。  そんなある日のこと、村に旅人が訪れた。古ぼけて煤けた杖を携えていたことから魔導師であろうと思われたが、余りにみすぼらしい身なりに誰もが接待をためらい、結局村はずれに住まいを構えていた貧しい母子が彼に軒を貸すことになった。 「それが……幼き日の儂の家だったのだ」 「え? お爺ちゃんて小さい時は村に住んでたの?」 「ああ。そうだよ。今ではこんな大層なところに住まわせてもらって居るがな」 「へぇ……。それで?」  魔導師は翌朝、一宿の恩として村長のもとを訪れた。  何か出来るコトは無いかと問うた魔導師に、村長は怪訝な顔をして応えた。  そこそこ仕事の出来るフリーランスの魔導師であれば、ギルドからの報酬で少なくとももうちょっと小ぎれいな服装でいるはずである。優秀な魔導師であれば高額な報酬を得るパーティーと行動を共にしているものだ。纏っているボロ雑巾のような旅装は、男の仕事の出来なさ加減を物語っているような印象を与えた。  返事に詰まった村長に、俺なら、ゴブリンどもを何とかできるが? と魔導師は言った。  まさか! と村長は失笑した。  実力の無いものが高額の報酬を得たいがためについた虚言と断じて、村人たちは魔導師を馬鹿にした。 「魔導師のランクって、着ているもので見るの?」 「……いや」 「その魔導師は、どうしてそんなこと言いだしたの?」 「命を賭して渡り合うモノは嘘はつかん。出来るからそう言ったまでだ」  村人の反応に、ヤレヤレと首を振った魔導師は、懐から古びた封筒を取り出した。  これは強力な呪符が入ったもので、これを村の入り口の門に掲げておけばゴブリンどもは村には侵入できない、と。但し、それをゴブリンどもの洞窟入口に貼ってはならない。ましてや封筒から呪符を出してはならない、と。  村長は呪符の入った封筒を受け取ると、魔導師の足元へ銀貨を一枚放った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加