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夏稀へ
大賀は夏稀を自分の籍に入れようと考えていた。
養子縁組をする事で、夏稀は大賀の養子となり、同じ大賀の性を名乗る事になる。
今の日本で同性同士の繋がりをより強固なものにするための手段として、これしか方法はなかった。
夏稀には両親も兄弟もいない、しかも成人しているので、養子縁組は役所への届出をすればそれで成立する。
もしその後、継続し難い重大な事由などがあれば、家庭裁判所に離縁の訴えを提起することができる。
これなら、夏稀の気持ちが変わったとしても、いつでも自由にしてやれる。
大賀は必要な書類をテーブルに置いて、夏稀がシャワーを終えて出てくるのを待った。
夏稀がこの事をどう受け取ってくれるのか、何と返事をするのか・・・・・大賀には自信がなかった。
夏稀が本当に自分と家族になり、この先もずっと一緒に居たいと思ってくれるのか・・・・・
養子縁組は自分の自己満足ではないのか・・・・・
夏稀が自分の性を捨ててまで、大賀の性を名乗る気持ちになるだろうか・・・・・
男女の結婚ならまだしも、男として同じ男の籍に入ると言う事を夏稀がどう考えるのか・・・・・
二十一年名乗って来た入江 夏稀の名を大賀 夏稀に変えられるのか・・・・・
大賀にとっても、それは勇気のいる事だった。
これから先夏稀の人生に何が起ころうと自分が責任を持つと言う事、そして夏稀にも同じ責務を負わせると言う契約だった。
夏稀にはその事をはっきりと告げだ上で、どうするかを決めさせようと考えていた。
夏稀が髪を拭きながら、バスルームが出て来た。
冷蔵庫からペットボトルの水を出す。
冷たい水を喉を鳴らして飲んだ。
空になったペットボトルをゴミ箱に入れて、大賀の隣に座った。
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