大人の男

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大人の男

男が立ち去り、改めて男を見るとニヤついた顔で夏稀(なつき)を見ていた。 じっくりと顔を見ると、なんとも言えない大人の男の色気があった。 背も高く体格も半端なくいい、頭の中で一瞬裸の男を想像した。 なぜか胸がときめき、そんな自分を悟られたくなくて、咄嗟に口にした言葉に男が笑い出した。 「俺、あんたなんかタイプじやないから、子猫とかバカにすんな」 「可愛いいんだから、子猫で良いじゃないか」 「ガキじゃあるまいし・・・・・」 「お前歳は幾つなんだ?未成年があんな男と寝て金もらってるのか?」 「未成年じゃない、それに金なんて貰ってないよ」 「こんな時間に遊んでないで、早く家に帰れ」 男はそう言うと夏稀(なつき)に背を向けて歩き出した。 このまま、この男と別れたくない・・・・・そんな気持ちになっていた。 「待てよ、俺帰るとこ無いんだけど・・・・・」 「ほんとに未成年じゃないんだな」 「うん、21で大学3年だよ」 「そっか!帰るところがないなら、着いてこい」 歩き出した男の後ろ姿を見ながら着いて行く。 コートの裾を翻し、颯爽と歩く男の背中は大きくて、思わずその背中に飛びつきたい衝動にかられた。 あの背中におぶわれる自分を想像すると、急に胸がいっぱいで目頭が熱くなった。 遠い昔の子供の頃大きな背中におぶわれながら、横に並んだ母親が笑っていた。 そんな忘れていた情景が浮かび、その場に立ち尽くす。 鼻を啜りながら(うつむ)いた夏稀(なつき)に、前を歩いていた男が立ち止まり振り返った。 「どうしたんだ?・・・・・」 夏稀(なつき)の隣に立つと、背をかがめて顔を覗き込んだ。 「泣いてるのか?俺が怖くなったか?」 男は心配そうな声で夏稀(なつき)に聞いた。 「違う・・・・・あんたの背中見てたら、子供の頃のこと思い出したんだ」 「俺の背中?」 「大きくてさ・・・・・親父の背中に似てた」 「そうか・・・・・おぶってやろうか?」 「いいよ」 「遠慮するな、ほら」 男は膝をかがめて、夏稀(なつき)の前に座った。 長いコートが地面に広がっていた。 夏稀(なつき)は男の肩に両手を置いて、背中におぶさった。 男は軽々と立ち上がる。 夏稀(なつき)は一際高くなった目線が嬉しくて、背中越しに男の耳元で囁いた。 「おじさん、背が高いね」 「おじさん?俺はまだ30になったばかりだ、おじさんはやめてくれ」 「ごめん、じゃ名前教えてよ」 「大賀 優慎(たいがゆうしん)だ、お前は?」 「たいが?すごいカッコいい。俺は入江 夏稀(いりえなつき)」 「なつきか?お前にぴったりだな」 「何それ?どう言う意味だよ」 「褒めてんだろうが」 男の背中は温かく、伝わる熱で夏稀(なつき)の身体も温まってきた。 温まると人は眠たくなるのか、夏稀(なつき)は男の背中におぶわれながら目を閉じた。
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