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大賀の決意
ソファに座った夏稀がテーブルの書類に目を向けた。
「優慎、これ何?」
「夏稀、お前に話があるんだ」
大賀の唯ならぬ顔に夏稀は緊張した。
「・・・・・話って?」
夏稀が神妙な顔になった。
大賀がこれ程慎重に話しかけたことはこれまで一度もなかった。
「これは、お前を俺の籍に入れる為の書類だ。俺と同じ大賀になってくれるか?」
「それ・・・・どう言う意味?俺が大賀 夏稀になるって事?」
「そうだ、お前と俺はこれで本当の家族になるんだ」
「・・・・・優慎・・・・・俺が優慎の家族になるの?」
「承諾してほしい。俺はずっとこの先もお前と一緒に居たい、本当の家族になりたいんだ。男同士は結婚はできない、だからこんな方法しか家族にはなれないが、それでもいいか?」
大賀が夏稀の手を掴んだ。
夏稀の顔がみるみる歪んでいった、唇が震え、大粒の涙が溢れ出した。
頬を伝う涙は顎を伝って大賀の手を濡らした。
大賀の手が夏稀の頬の涙を拭う、夏稀は大賀の胸に顔を埋めて泣き続けた。
愛しくて恋しくて堪らない・・・・・
夏稀が泣き止むまで、髪を撫で背中を摩り、時折強く抱きしめる。
大賀の背中に回した手に夏稀はありったけの力を込めた。
泣き止んだ夏稀が顔を上げて大賀を見た。
「優慎、俺優慎と家族になりたい」
夏稀は嬉しそうに微笑んでそう言った。
「ありがとう夏稀」
大賀の顔も安心と喜びで溢れていた。
この日二人は名実共に家族となった。
入江 夏稀は正式に大賀 夏稀になった。
大賀は夏稀へ、恋人の証となる箱を手渡した。
「夏稀、これを受け取って」
夏稀が受け取り、箱を開けると輝くシルバーの指輪が入っていた。
大賀がその一つを夏稀の左の薬指にはめた。
夏稀も大賀の薬指にはめた。
大賀の顔は喜びに溢れ、夏稀の顔は安心と幸せに満ちていた。
この先何があろうとも、二人は永遠に家族として恋人として生涯を共にする。
孤独だった二人が寄り添い、温かさに満ちた家族になった。
寄り添う二人のそばでハッピーが小さな声でニャーと鳴いた。
二人は顔を見合わせ、ハッピーを抱き上げた。
それは間違いなく幸せに満ちた家族の風景だった。
完
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