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心の中
今度のことで夏稀は、自分の気持ちを再認識した。
大賀が居ないと生きていけない、大賀と離れられない自分を実感した。
「おやすみ」と言う大賀の低い声と優しいキスが忘れかけていた母を思い出し、大賀の大きな手と広い背中が逞しい父と同じ懐かしさと安心感を連れてくる。
他愛のない心地良い愛、そんな愛を大賀はくれる。
もう二度と離れては暮らせないとつくづく思った。
休日の朝は穏やかだった、大賀の心も夏稀の気持ちも落ち着き、遅めの朝食を摂った。
夏の眩しい日差しが差し込む窓と白いカーテン、涼やかなエアコンの心地よい部屋、その全てが大賀が居てこそ快適だった。
「夏稀、連休どうする?」
「・・・・・どこにも行かない」
「まだ、怒ってる?」
「違うよ、この部屋に居たいんだ。優慎とハッピーと・・・・・毎日朝から晩までずっと一緒に・・・・・そんな休みもいいだろ?」
「そうだな、それじゃぁ晩ご飯は毎日日替わりで豪華にするってのはどうだ?」
「それ良いね、それでいこう」
夏稀にとって、今の一番は大賀と一緒にいる事だった。この部屋で大賀と居るだけで安心で幸せだった。
大賀は夏稀の気持ちを直ぐに理解した。
この部屋で二人と1匹で平穏に暮らせる幸せ、それが自分達にとって、どれ程貴重でかけがえの無い、価値ある事かを夏稀は知った。
二人の初めての夏休みはもう直ぐ始まる。
今日も夏稀は患者の案内の為に病院の入り口に待機した。
診察時間が始まる1時間前から、診察を希望する患者が詰めかけた。
その中に一人の顔馴染みの男が居た。
「アッ、おはよう!俺のこと覚えてる?」
「ジムのトレーナーさん?」
「この前はありがとう」
「お見舞いですか?」
「そう、良かったらランチ食べない?この前の続きがあるんだ」
男は人懐っこい笑顔で夏稀にそう言った。
「ジムに来る先生の事?」
彼との間にあるのはその話しか思いつかない・・・・・だったら、面白い話だろうと夏稀はランチを承諾した。
「そう、また話聞いてくれる?」
進展したのだろうか?
嬉しそうな男の顔が、そう言っているように思えた。
「いいよ」
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