その川を越えたずっと遠く

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 ふと西日のまぶしさに気づき、目を細めて窓辺を見る。すると、あの晩母が吐き出した色ガラスのかけらにまぎれて、なにか楕円形の塊がそこにあるのに気づいた。  あれはなんだろう。一歩、近づく。  あ。これは。  石だ!  北の町の、あの河原の、卵形の……  すっかり存在を忘れていた。とてもなつかしかった。手に取ってみる。しっとりと肌に吸いつくような、なめらかな質感が楽しい。  しばらく手のひらで転がしていたら、心の奥底に封じていた思い出が一挙によみがえった。  咲希ちゃんのこと。美麻ちゃんのこと。シンプルな会話。みかるを好きな、きれいな女の子たち。みかるがみかると呼ばれ、スマホもタブレットもなかった、あの小さな世界。そして、あの川。別れの日、激しい銀色に燃えていた、あの水面……  手のひらのそれを見つめ、みかるはほほえむ。  いつか、大きくなったら、もどろうか。  そして、川を見に行こうか。  ……だいじょうぶ。  見に行くだけ。  ただ少し、見に行くだけだから。
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