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翌日、陽当たりの悪い空き教室のすみに、みかるはクラスメイトの美麻ちゃんとふたりで座りこんでいた。
「引っ越すことになったんだ」
そんな告白にも、美麻ちゃんは「ふーん」と返したきりで、リアクションは期待よりだいぶ薄い。それほど惜しまれていない自分を知り、みかるはちょっとがっかりした。惜しまれていない自分を少しも悲しんでいない自分にも、もっとがっかりした。
「まだ、だれにも言わないで」
「なんで」
ボブヘアの、整っているけれど表情に乏しい顔がみかるのほうを見て、首をかしげる。
「それは、わかんないけど」
少しの間のあと、美麻ちゃんはおずおずと口を開いた。
「ねえ、それより、みかるくんは、美麻のこと好き?」
「……う、うん」
「よかった」
そう言って身体を少し寄せてきた美麻ちゃんのことを、みかるははっきりと、うとましく思った。けれど、こんな感じの女の子としか関わったことがないから、おかしいとは思わなかった。
二、三日もすれば、転居の情報はクラス中に広まっていた。美麻ちゃんへの怒りはない。もともと、信用してもいなかったし。
それでも、咲希ちゃんにだけは打ち明ける気になれず、しばらく会わずにいた。
道で行き会ったとき、彼女のほうから「引っ越すの?」と訊いてきた。みかるはうなずくしかなかった。彼女もまた落胆したようすは見せず、みかるはがっかりしたけれど、ほっとしてもいた。「どこにも行かないで」って約束、もう果たせないから。
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