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出立の前日。
夕暮れ前の川辺に、みかるは咲希ちゃんとふたりでいる。
川面が、激しい銀色に燃えている。彼女はむっつりと黙りこみ、みかるに背を向け、なにも言わない。
怒ってる、のかな?
でもまあ、だいじょうぶだろ。きのうまで、そんな悲しそうでもなかったし。
「じゃ、もう行くから。いままで、ありがと」
背筋の通った美しい後ろ姿に語りかけると、彼女は勢いよく振り返った。
目のふちも、鼻の頭も、耳も首もほの赤く染まり、瞳の光は涙のために分散している。
その顔を見て、動けなくなった。
町にアイチャクなんてない、と思っていた。咲希ちゃんのことだって、ただ綺麗だからいっしょにいたたけで、心を通わせられていた実感なんて、少しもないつもりだった。
でも、そうじゃなかったみたいだ。
だけど。
「さようなら、咲希ちゃん」
頭を下げ、うしろを向く。そして、駆けだす。
心が、川になったみたいだった。胸が破れて、中身がだらだら流れ出していく感覚が止まらない。振り返って彼女の笑顔を見れば、この流出は止まるのだろう。
だけど、みかるはもどらない。
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