雨の中の少女に花束を

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雨の中の少女に花束を

雨が降る。とめどもなく。街中に傘の花が開く。 「今年も、雨」 確か、今日は七夕。古い伝説を信じてるなんて。屑華は、空を見上げた。今晩も、雨は、止むこともない。 「今年も、会えないだね」 何年前だろうか。父親が事故死した。その時の記憶は、定かではない。覚えているのは、父親が、誰かから、守るように亡くなったという事。あの日から、母親は、変わった。 「先に食べていて」 冷たい態度。屑華は、自宅で、空気になった。学校でも、居場所はない。朝早く学校に行き、屋上だけが、屑華の居場所。いつも、一人だった。 「今日は、パパの命日」 一人で、花を買い、墓地に花を手向ける。 「今年も、来られたんですね」 見かけた牧師が声をかける。 「はい」 「ちょうど、頂いた花があったんですよ。よかったら」 牧師が、くれたのは、大きな花束。 「ありがとうございます」 「あれから、何年経ちますかね」 「さぁ、どうでしょうか?」 牧師の目が、冷たく笑っている気がした。屑華は、受け取った花束を墓石に添えた。 「パパ。私、一人。まだ生きている。早く迎えに来て」 どうして、父親は、自分を助けてしまったのだろう。居場所のない自分。屑華は、雨の中、墓地に佇むのだった。
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