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(1)
「さいっってぇ」
そんな捨て台詞でガタンと立ち上がり、さっさとお店を出て行った彼女を私はぼんやりと見送っていた。
最低……おっしゃる通り、いつものパターンよね。
「相変わらずですね」
そっと、カクテルを置いてくれたのはこのお店のバーテンダー。
私は肩をすくめただけで黙って口をつける。
「どうして、いつもそんなーーあ、何でもないです」
常連と言ってもいいくらい通っているこのビアンバーは、平日の遅めの時間だからかお客はまばらだった。
「カウンターに移っても良いかしら?」
「構いませんよ」
振られた時にはいつも一人で飲むけれど、今日は何故か誰かと喋りたい気分になっていた。
「いつも最低なことしてるわよね、私」
だからつい、バーテンダーに話しかけていた。
「いえ、そこまでは……ただ、自分自身も傷つけている気がして、何でだろうとは思います」
そんな風に見られていたのかと驚いた。
私がここに通うのは一夜の相手を探すため。さっき出て行った彼女は先週の相手だった。今夜もどう? とか、好きになりそう……なんて言ってくるから断っただけ。割り切った関係がいい、もう傷つきたくない。
断った理由を聞いてくるから答えたの。
「だって気持ちよくなかったもの」と。
そう、私が傷つきたくないから彼女を傷つけた、最低な女。
「誰かと本気で付き合う気はないんですか?」
バーテンダーの言葉に何人かの顔が思い浮かぶ。過去、本気で好きになって去っていった女性たち。
「そう出来たらいいわよね」
「出来ない理由が?」
「ノンケばかり好きになるのよ」
彼女は私の言葉に、あぁ……と納得したような表情をした。
女性しか好きになれない私は、それでも恋した女性に果敢にも告白をして。
振られることも多かったけれど、何人かとは付き合うことも出来た。
一緒に暮らしたこともあったのに……最後はみんな私の元から去っていく。
「だって、結婚したいからとか子供が欲しいからとか言われたら、別れるしかないじゃない」
私が決して与えられなかったものを、他の男になら簡単に与えてもらえるんだもの。
悔しい……今は、ただそれだけだ。
「お隣、いいですか?」
バーテンダーが他の客の相手をしている間に声をかけてきた女の子。
「どうぞ、もう遅いけどこれから飲むの? 明日はお仕事?」
若いな、けど色気もしっかり備わっている。
「明日は休みなんです、あと一杯だけにしようかなと」
イケる?
「なら私も! 飲んだら一緒に出ようか?」
「はい」
笑うと、片頬にエクボが見えた。
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