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母は思案するような表情をした。
「それが、よくわからないのよ。おばあちゃんが生まれ育った家だから離れがたいんだと思うけどね。お父さんが帰ってきたらもう一度電話してもらって、老人ホームかこの家で同居するか、説得してもらうつもりなんだけど」
「たぶん無駄だと思うよ」
母は苦笑した。
「私もそう思うけど。とにかく心配でね」
やがて夜になり、父が仕事から帰ってきた。
僕と母と父の三人がリビングに集まると、父は祖母にスマホで電話をかけた。
「もしもし、お義母さんですか。腰の具合はどうです……? そうですか、それは良かった。ところでご相談したいことがありまして。ええ、はい。実はですね、老人ホームに行ってみる気はないかってことなんですが。ええ、そうです。いえ、別に無理強いしてるわけではないんですよ。ええ、はあ……。申し訳ありません。よくわかりました」
スマホを耳に当てたまま、目の前に祖母などいないのに、父はぺこぺこと頭を下げていた。
電話を切った父が、弱り切った顔で首を横に振る。
「ダメだ……。どうしても老人ホームも同居もお断りだってさ」
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