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理由はまったくわからないが、祖母はとにかくあの家に居続けたいという意思が思いのほか強固らしかった。
父も母もついに根負けしたようで、その後、祖母が引っ越すという話は我が家ではまるで禁句のように、誰も口にしなくなっていった。
もう同居のことが話題にも上がらないまま、数か月が過ぎた。
七月も終わりに近づいてきたある日曜日の朝、母のスマホが鳴った。
スマホを耳に当て、誰かと敬語で話していた母の顔が見る見るうちに青くなっていく。
電話を切った母が、震えるような声で僕に言った。
「おばあちゃん……亡くなったわ……」
「ウソでしょ」
突然の訃報に僕は言葉を失い、それしか言えなかった。
「今、警察の人から電話があって。家の中で亡くなったみたい。とにかく今からおばあちゃん家に行くから支度しなさい」
大した支度もせずに僕と母、父の三人は車に乗り込んだ。
祖母の暮らしていた家までの道すがら、僕は母に聞いた。
「おばあちゃんに何があったの?」
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