引っ越すなんてイヤ

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「まあ、とにかく見てもらうほうが早い。さあ、中へどうぞ。ただ、息子さんはここにいたほうがいいでしょう」  刑事に先導されて、父と母は祖母の家の中へと入っていった。  間もなく、母の甲高い悲鳴があたりに響いた。  僕は二人のあとを追い、声のしたほうへ急いだ。  祖母の寝室の隣の部屋の戸口で、母が腰を抜かしていた。 「大丈夫。お母さん。何があったの?」 「あ……あれ……あれ……」  震える声を絞り出しながら、母は部屋の中を指さしている。  部屋の中に立っている父も呆然と一点を見つめている。  そこは和室で、押し入れの襖が開けてあった。  中にある三つの白い物体を見て、僕も口をぽかんと開けてしまった。  成人のものと思しい、三体のすでに白骨化した遺体がそこに鎮座していた。  ここにきて、やっと僕たちは祖母が同居をあんなにも拒んでいた理由がわかったのだった。  祖母がここを去れば、誰もいないこの古い家は取り壊されるかもしれない。  そうなれば遅かれ早かれ、この遺体が見つかってしまうだろう。  同居を拒んだのは、父に遠慮したからではなかったのだ。
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