引っ越すなんてイヤ

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 それは二月の深夜に起きた、突然の出来事だった。  すでに深い眠りについていた僕の部屋に入ってきた母が、震えるような声で言った。 「大変よ、起きなさい。すぐに出かける用意をして」  眠い目をこすりながら母に聞く。 「どこへ出かけるの? 何かあったの?」 「おばあちゃんが自宅で転んでケガをしたって電話があったの」 「おばあちゃんが……?」  祖母は、ここから十数キロほど離れた周囲を山に囲まれた田舎町に、たった一人で住んでいる。  もうすぐ八十歳に差し掛かろうとしている母方の祖母……。  最近、足腰が弱ってきたと聞いていたので、前から僕も心配していたのだ。 「おばあちゃん、大丈夫かなあ?」  僕はベッドから起き上がって母に聞いてみた。 「うん、命に別状はないみたい。だけど腰を強く打っちゃったみたいなの」 「今からおばあちゃん家に行くの?」 「そうよ。さあ、すぐに着替えなさい」 「うん、わかった」  手短に着替えを済ませた僕は、父と母と一緒にガレージに停めてある車に乗り込んだ。  車は滑るように走り出す。深夜の闇の中、車のエンジン音だけが耳に響く。  ハンドルを握っていた父が母に言った。
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