見えない助け

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 その夜の出来事がとどめになったのだろう。  雄太からの連絡が一切来なくなった。私から彼の携帯にメッセージを送っても、既読にはなるが返信はない。電話をかけても出ず、まれに出たら「忙しいから」の一言で切られてしまう。    挙句の果ては先週送られてきた『別れよう』のメッセージだ。私も、もう続けるのは無理だ、と悟り『分かった』と返した。  雄太との縁がぷつりと切れた。  と同時に嫌な縁ができたようだ。隣人のカンバラである。  私は彼に頻繁に出くわすようになった。  初めはマンション近くのスーパーで、晩御飯の食材を買おうとしたとき。鮮魚コーナーを眺めていると、カンバラがいた。十メートルほど離れている距離。私は商品を手に取り、すぐにレジへ逃げこんだ。    職場からの帰り。  深夜のコンビニでも、この不気味な隣人に遭遇した。  弁当を選んでいると、雑誌棚にたたずんでいる。思わずそちらを見たとき、彼が視線を寄越した。目が合う。引きずりこまれそうな暗い瞳。悪意も好意も読みとれない顔つきに、鳥肌が立つ。  初めは同じマンションだからと考えたが、頻度が多い。  ホテル業の私は泊り仕事もあるし、帰宅時間はまちまちだ。これだけ会うのはどう考えてもおかしい。  何をしてくるわけでもなく、声もかけてはこないが、気味が悪かった。
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