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プロローグ
「今日はありがとう。楽しかった」
あたしはタクシーを降り、ドアを開けたまま同乗者と話をしている。
ドラバーに睨まれていながら無視して話し続けて5分。そろそろドライバーも限界だろうと愛弓も話を切り上げようとしていた。
ポツリと頬に冷たい感触があった。
「雨じゃない?」
「うん、そう見たい」
あたしも空に顔を向けるとポツリ、ポツリと頬に当たる。
「じゃ、マンションに避難するね」
愛弓に手を振りマンションのエントランスに走って行った。
暫くして雨が豪雨の様に降って来た。
愛弓を乗せたタクシーは豪雨の中を走り去って行った。
あ〜あ、ドライバーは災難かもしれない。
あたし達を乗せたタクシーは流れが早い道路であえてスピードを落として停車したのだ。
あたし達を乗せなければ、豪雨の中運転しなくても良かったかもしれない。
あたしはドライバーの労力に無言の感謝をした。
エントランスからタクシーが見えなくなるまで見送った。
エントランスからエレベーターホールに行き上昇ボタンを押す。
エレベーターは地下から上がってくる様だ。階数を示す表示板がB1になっていた。
階数表示板の数字が1になると「チン」と音を立てエレベーターの扉が空いた。
エレベーターの中に既に人がいて「開」ボタンを押してくれている。
「ありがとうございます」
あたしはお礼を言いエレベーターの中に乗り込んだ。
「何回ですか?」
見知らぬ男性だけれどあたしは素直に階数を答えた。結局はバレるので仕方ないと思って素直に言ったのだ。
エレベーターはゆっくり上昇して行く。
相乗りの男性はあたしの下の階の26階だ。
階数表示番が26を表示するとこれまたゆっくりと止まり「チン」を音を立てドアが開いた。
「ありがとうございます。それにしてもすごい雨でしたね」
男性はそう言うと微笑みエレベーターを出て行った。
エレベーターの外から「何してたの?」と甲高い声が聞こえ、あたしは男性の連れかと思い、ホッとした様で寂しい思いもあった。
あたしも彼氏欲しいなぁ。
エレベーターの側面に寄りかかりそっと呟いた。
2年前の出来事を回想する。
26階からの1階上がるまでの間がまるで2年建ったかの様に長く感じた。
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