プロローグ

1/1
前へ
/5ページ
次へ

プロローグ

「今日はありがとう。楽しかった」  あたしはタクシーを降り、ドアを開けたまま同乗者と話をしている。  ドラバーに睨まれていながら無視して話し続けて5分。そろそろドライバーも限界だろうと愛弓(あゆみ)も話を切り上げようとしていた。  ポツリと頬に冷たい感触があった。 「雨じゃない?」 「うん、そう見たい」  あたしも空に顔を向けるとポツリ、ポツリと頬に当たる。 「じゃ、マンションに避難するね」  愛弓に手を振りマンションのエントランスに走って行った。  暫くして雨が豪雨の様に降って来た。  愛弓を乗せたタクシーは豪雨の中を走り去って行った。  あ〜あ、ドライバーは災難かもしれない。  あたし達を乗せたタクシーは流れが早い道路であえてスピードを落として停車したのだ。  あたし達を乗せなければ、豪雨の中運転しなくても良かったかもしれない。  あたしはドライバーの労力に無言の感謝をした。  エントランスからタクシーが見えなくなるまで見送った。  エントランスからエレベーターホールに行き上昇ボタンを押す。  エレベーターは地下から上がってくる様だ。階数を示す表示板がB1になっていた。  階数表示板の数字が1になると「チン」と音を立てエレベーターの扉が空いた。  エレベーターの中に既に人がいて「開」ボタンを押してくれている。 「ありがとうございます」  あたしはお礼を言いエレベーターの中に乗り込んだ。 「何回ですか?」  見知らぬ男性だけれどあたしは素直に階数を答えた。結局はバレるので仕方ないと思って素直に言ったのだ。  エレベーターはゆっくり上昇して行く。  相乗りの男性はあたしの下の階の26階だ。    階数表示番が26を表示するとこれまたゆっくりと止まり「チン」を音を立てドアが開いた。 「ありがとうございます。それにしてもすごい雨でしたね」  男性はそう言うと微笑みエレベーターを出て行った。  エレベーターの外から「何してたの?」と甲高い声が聞こえ、あたしは男性の連れかと思い、ホッとした様で寂しい思いもあった。  あたしも彼氏欲しいなぁ。  エレベーターの側面に寄りかかりそっと呟いた。  2年前の出来事を回想する。  26階からの1階上がるまでの間がまるで2年建ったかの様に長く感じた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加