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『子守唄を歌いました』
「え、ホッシー童謡とか歌えんの?」
星野さんがこめかみの辺りからカチカチと音を鳴らすと、急に音楽が流れ始める。
『咲〜かせて〜咲〜かせて〜桃色〜吐息〜♪』
「…………」
『あ〜なた〜に、抱〜かれて、こぼれる花になる〜♪』
「……うん、それ子守唄ではないね」
絵梨奈さんが冷静につっこむと、星野さんは音楽を止めて少しだけしゅんとして見せた。
「なんか他に歌える曲ないの?」
『泣かしたこともあ〜る、冷たくし〜ても〜なお♪』
「……それも赤ちゃんには向いてない曲かもね」
『babyという歌詞が出てくるので悪くないかと思ったのですが』
「残念だけど、そっちのbabyじゃないんだよねぇ」
「隠しきれないスナック選曲感が凄い……」
心なしか俯きがちになり始めた星野さんを見て、俺と絵梨奈さんは慌てふためく。
「ほらいざとなったら星占いしてあげれば良いんじゃない?」
『赤ちゃんに星占いって必要ありますかね』
「占いっていうか頭ぐるぐるするの見たら喜びそうじゃん、ガラガラ的なさ」
ベビーベッドを覗き込みながら、ぐるぐると頭部のルーレットを回す姿を想像して背筋がゾッとなる。
ちらりと横を見ると絵梨奈さんも同じだったらしく、肩をすくめていた。
「それよりさ、私が童謡教えてあげるよ」
銀色のアイスディッシャーを指揮棒のように振りながら、絵梨奈さんはきらきら星を歌い出す。
エロカワなお姉さんが歌う子守唄か……。
これはこれで美味しいかもしれない。
デレデレとその様子を見ていると、隣に立っていた星野さんの頭部のルーレットが勢いよく回転し始めた。
「あっ」
筒状に丸められた占い結果が床に転がり落ちる。
カウンターから出てきた絵梨奈さんがそれを拾い上げて、くるくると広げた。
「……思わぬきっかけで、新たな性癖が目覚めるかも」
怪談話でも読み上げるような口調で、絵梨奈さんはこう続けた。
「……あなたのラッキーアイテムは"子守唄"です」
【完】
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