第1章

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 それから社内を一通り案内したころには、私の退社時刻はすぐそこまで迫っていた。 「では、明日からよろしくお願いいたします」  副社長をお部屋に送って行って、私はぺこりと頭を下げる。  さて、この後は着替えたり帰宅の準備をしなくては。 (今日はなに食べようかな……)  正直、色々な意味で疲れていて、ご飯を作る気力はない。  どうせだし、久々に外食、もしくはコンビニとかスーパーでお弁当でも買って帰ろうかな……と思っていたとき。  不意に「香坂さん」と声をかけられた。 「……どう、なさいました?」  振り向いて、私はほかでもない副社長のほうを見つめる。  彼は少し困ったように眉を下げた。かと思えば、意を決したように口を開く。 「その、嫌だったら断ってもらって構わないんですが……」 「……は、はい」 「この後、よかったら食事でも行きませんか?」  ……一秒、二秒、三秒。三十秒。  私は副社長の言葉を理解するのにかなりの時間を要した。  そして、理解した瞬間。頭の中が真っ白になる。 (え、お、お食事? 副社長と……?)  彼を見つめてぽかんとする。副社長は、気まずそうに頬を掻いていらっしゃった。 「今日のお礼ということで、奢りますので……」  私は別に奢ってもらいたいわけではないのだけれど。
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