第1章

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「なので、明日からのことを相談したい……というのが、本当のところだったりします。かっこ悪いので、言いたくなかったのですが……」  視線を彷徨わせる副社長。  ……そういうことなら、仕方がない、と思う。 (それに、副社長は今までの男性とは違う……だろうし)  今までの男性は、食事にいけば言い寄って来た。付き合ってほしいとか、この後ホテルに行こうとか。  まぁ、副社長ほど好みの人ならば、ちょっと考えた……かも、だけど。 (けど、さすがに一夜の過ちをするなんてありえないわ)  そう思い、私は一人で悩んだ末に答えを出す。 「そういうことでしたら、ぜひご一緒させていただきたく」  私の返答を聞いた副社長は、露骨にほっとしていらっしゃった。  ……その表情を見るだけで、了承してよかったと思ってしまう。 「では、一時間後にエントランスで」 「……はい」  副社長のその言葉に頷いて、私は今度こそお部屋を出て行く。  一礼をして扉を閉めて。……自分の心臓の音がやたらとうるさいことに気が付いた。 (違う。彼は、私のことが好きというわけでは……)  私のちょっと夢見がちな部分が主張をする。それをねじ伏せて、冷静を装って。私は、更衣室に足を向けるのだった。
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