第1章

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 更衣室に入って、私はいつもの服装に戻る。  今日の衣服はブラウンのブラウス。それから、ベージュのパンツだ。世にいう、きれいめという服装になるのだと思う。  元々女性にしては高身長の私は、壊滅的に可愛い服装が似合わなかった。というわけで、いつもシンプルなきれいめにまとめている。  着替えて、少しだけメイクを直して。髪の毛を整え、更衣室を出て行こうとする。そうすれば、後ろから声をかけられた。 「香坂さん。なんか今日、ご機嫌ですね」  そこにいたのは、営業課にいる同期の女性百田(ももた)さんだった。  彼女はニコニコと笑って私に声をかけてくる。だから、私は曖昧に笑った。 「そう?」 「はい。なんか、いつもよりも輝いて見えます」  同期とあまり親しくしていない私だけれど、百田さん……それから、もう一人の女性社員とは割と話す。  そのためか、彼女は私の些細な変化に気が付いたらしい。 (別に輝いているっていうほどでは……)  単に副社長と食事に行くというだけなんだけれど。 (まぁ、好みド真ん中な男性との食事だし。……今までになく、張り切ってはいるのかも)  とはいっても、私は副社長とそういう関係になりたいとは思っていない。身分だって全然違うし、職場恋愛はご遠慮願いたい。あと、あそこまで好みになると、もういっそ観賞用と割り切りたい。
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