第1章

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「早かったですね」 「い、いえ、その。上司をお待たせするのはダメかと思いまして……」  と、言っているけれど。  副社長を待たせたことには変わりない。 「その、遅れてしまって……」 「別に、気にしないでください。俺が早く出て来ただけなので」  彼は私の謝罪を制すると、「行きましょうか」とおっしゃった。私は、ためらいがちに頷く。 「何処かおススメの場所とかあります? ついこの間まで地方にいたので、ここら辺あまり詳しくなくて」 「あっ、そ、そうですよね。副社長は、どういうのがお好きですか?」  この辺りのお店については、一通り頭に叩き込んである。なので、洋食でも和食でも中華でも。なんだったらフレンチとかでも紹介できる。 「いえ、俺に合わせなくていいです。香坂さんに合わせます」  しかし、彼の返答は私の予想していないもので。……若干頬が引きつった。 「で、ですが」 「俺の好みになると、肉とかそういうものになっちゃうので。……居酒屋とかになりますよ?」  なんてことない風にそう言う彼。……居酒屋。 「そういうの、女性ってあんまり――」 「――いいところあります!」  それだったら。そう思って、私は若干身を乗り出しつつ、副社長にそう宣言した。
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