序章

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 一夜の過ち。身体だけの関係。  そういうの、私には一生縁がないだろうと思ってきた。  自分の理想にこだわって、妥協できない私。  もちろん、自分の理想の男性が現れれば、それなりに舞い上がるとは思う。  かといって、かといって! (いきなりこれはないでしょう!?)  見慣れない室内。大きなベッド。裸の私。隣には、つい先日知り合った……というか、副社長に就任された男性。 「う、うそ……絶対、こんなの……ないって」  幸いなのは、彼が私の理想の人そのものだったこと……って、そういうのはどうでもいい。  慌ててベッドの近くに散らばる衣服を回収しようと、起き上がる。けど、その身体を抱き寄せられる。 (すっごいたくましい腕……!)  なんて感動している場合じゃない。 (いや、少しくらい、触ってもいい……?)  そんなことを考えている場合じゃない!  ぶんぶんと首を横に振って、私は昨夜のことを思い出す。 「私、本当にバカだ……」  そして、小さくそう呟いた。  ――香坂(こうさか) 杏珠(あんじゅ)。二十六歳。  本日、どうやら一夜の過ちをしてしまったようです。
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