第1章

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 奥の個室に入って、私はメニューを見て注文をする。  副社長にはお酒と食べたいものを選んでもらって、それに追加でおススメなんかを注文する。  女性が出て行けば、この場には二人きりになった。 「……その、なんていうか、意外ですね」  しばらくして、副社長がそう言葉を零された。……意外。 「香坂さんって、お綺麗なのでもっとこう……おしゃれな場所に行くのかと」  彼のお言葉に、からかいの色は含まれていない。多分、心の底からそう思っているのだろう。  ……悪い気はしない。だって、何度もいうように彼は私の好みド真ん中なのだから。 「個人的主観で申し訳ないのですが、おしゃれなお店って割と高いじゃないですか」  そりゃあ、おしゃれなお店でリーズナブルなところだってあるとは思う。ただ、うん。私の知っているおしゃれなお店は、とても高級な場所ばかりなのだ。  ……会食のためにお店を探すから、それはそれで当然なのかもしれないけれど。 「私は、その。……節約が趣味みたいなものなので」  あと、二週に一度飲みに行くのが楽しみ。……もちろん、同性と。  それは心の中だけで付け足して、私はメニュー表を元の場所に戻した。 「その、副社長は、こういう場所で本当に大丈夫でしたか?」  さすがに店員さんの前では本音を言えないだろうから。  その一心で問いかけてみる。副社長は、きょとんとされていた。
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