第1章

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 きょとんとしつつ彼の名前を口ずさめば、彼が大きく頷いてくださった。これで、いいらしい。 「じゃあ、今後はそういうことで」  何処か早口でそう告げて、彼がぐいっとハイボールを飲む。  というか、この場合私だけ「香坂さん」って変じゃないだろうか? (私も名前で呼んでもらったほうがいい……?)  いや、けど、でも……! なんていうか、私たちはそこまで仲良くなっているわけではないだろうに。  副社長……丞さんはプライベートと仕事は別けたいタイプらしいけれど、私はそこまでじゃないというか……。 (ど、どうしよう……)  頭の中が混乱して、なんかもう無性に喉が渇いてきて。私はレモンサワーを一気に飲んだ。  目の前の丞さんが驚いているのがよくわかる。えぇい、この際お酒の勢いだ。 「私のことも、名前で呼んでくださっても大丈夫……です」  しかし、これは少々上から目線過ぎないだろうか?  後悔して、サーっと頭が冷静になるみたいな感覚に陥った。……マズイ、マズイ。謝ったほうがいい?  そう思う私を他所に、丞さんが少し考えるような素振りを見せる。
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