第1章

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「あ、別に、香坂のままでも――」 「じゃあ、杏珠さん」  けれど、なんだろうか。彼は特に文句をおっしゃることもなく、さも当然のように私の名前を口にする。  ……というか、私の名前、憶えていてくださったのだと、ある意味感心。  ぽかんとする私に、丞さんが笑みを向けてくださる。……あ、その表情、好きかも。 「とりあえず、今日は楽しく飲めたらいいなぁって思います。……杏珠さんと一緒だと、なんでも楽しめそうですし」  これは、口説かれているのだろうか?  そんなことを考える私だったけれど、店員の女性が戻ってきて、いくつかのおつまみをテーブルの上に並べてくれるから。  一旦思考回路を中断して、私はとりあえずと焼き鳥に手を伸ばした。 「杏珠さんって、鶏肉好きなんですか?」 「……まぁ、そうですね。豚肉とか、牛肉とかより、鶏肉が好きです」  なんだろうか、この会話は。  あと、純粋に恥ずかしくて。いつもよりも早いペースで、お酒を飲んでいく。  それから、なんだろうか。途中から記憶があいまいになって、消えて行って。  気が付いたら――冒頭の状態になっていた。多分、そういうことだ。  我ながら、とんでもない失態を犯してしまったと、思う。
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