第1章

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(えっと、どうしよう。ここは、スルーして帰るべき?)  自分のスマホをタップする。ディスプレイに映った時間は、午前五時。すごく、中途半端だ。 「というか、一度帰って出社するの、間に合うの……?」  本当に最悪だ。これが休日だったら……と思って、私は項垂れる。  そうしていれば、ふと隣から音が聞こえる。もぞもぞと動いたような音で、恐る恐るそちらに視線を向けた。 「あぁ、杏珠さん。おはようございます」 「お、おはよう、ございます……」  頬を引きつらせつつ、冷静を装ってそう返す。  ……って、おはようございますじゃない! (時間的にはおはようで間違いないんだけど)  そういう問題じゃないけれど、現実逃避だ、現実逃避。 (唯一幸運なことがあるとすれば、今、私が一人暮らしであるということくらいか……)  普段はお母さんと二人で暮らしているのだけれど、今お母さんはわけあって入院中。そのため、私が家に帰らなくても不審に思う人はない。……不幸中の幸いだ。 「……杏珠さん?」  副社長……丞さんが私の名前を呼んでこられる。  ぴくりと肩を跳ねさせて、彼のほうに顔を向ける。彼は寝癖がついた頭を掻きつつ、私を見つめる。
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