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(えっと、どうしよう。ここは、スルーして帰るべき?)
自分のスマホをタップする。ディスプレイに映った時間は、午前五時。すごく、中途半端だ。
「というか、一度帰って出社するの、間に合うの……?」
本当に最悪だ。これが休日だったら……と思って、私は項垂れる。
そうしていれば、ふと隣から音が聞こえる。もぞもぞと動いたような音で、恐る恐るそちらに視線を向けた。
「あぁ、杏珠さん。おはようございます」
「お、おはよう、ございます……」
頬を引きつらせつつ、冷静を装ってそう返す。
……って、おはようございますじゃない!
(時間的にはおはようで間違いないんだけど)
そういう問題じゃないけれど、現実逃避だ、現実逃避。
(唯一幸運なことがあるとすれば、今、私が一人暮らしであるということくらいか……)
普段はお母さんと二人で暮らしているのだけれど、今お母さんはわけあって入院中。そのため、私が家に帰らなくても不審に思う人はない。……不幸中の幸いだ。
「……杏珠さん?」
副社長……丞さんが私の名前を呼んでこられる。
ぴくりと肩を跳ねさせて、彼のほうに顔を向ける。彼は寝癖がついた頭を掻きつつ、私を見つめる。
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