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「あ、ああああ、あの! すみませんっ!」
上ずったような、慌てたような。なんとも間抜けな声を上げて、私は丞さんの手からブラを受け取る。
……いや、受け取ったなんてものじゃない。ひったくったというほうが正しいのかもしれない。
(こんなとき、どうすればいいの……?)
男性経験がない所為で、どうすればいいかわからない。
そう思って俯いていれば、今度は扉が大きく開いた。……驚いて、そちらに視線を向ける。
「……あ、あの」
驚きすぎて動けない私を他所に、丞さんがそのままするりとバスルームのほうに身を滑り込ませた。
そして、動けない私を他所に、彼が私の背後に立つ。
「杏珠さん」
彼が何処か甘さを孕んだような声で、そう囁く。
……まずい。なんていうか、心がざわざわとする。
こんな感覚、正真正銘初めてだ。
「あの、えっと、その……」
どういう風に言えば角が立たずに出て行ってもらえるだろうか?
思考回路をフル回転させてそう考えるのに、答えなんてちっとも出てこない。
むしろ、丞さんの腕が私の腰に回るから。……心臓がとくんと大きく跳ねるのに気が付いてしまう。
「このまま出社するにしても、まだ早いので。……もう少し、ゆっくりしていきませんか?」
彼が私の身体に背後から覆いかぶさってきて、そう提案してこられる。
……確かに早いけど。けど!
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