第1章

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(違う……知ってる。これは、なんというか、頭の奥底に……)  こびりついている。  それはきっと、頭にない昨夜の記憶。  顔を上げて、目の前にある洗面台を見つめる。そこにある大きな鏡に映った私自身は……なんというか、今まで見たことがないような表情をしていて。 (や、だ……)  心ではそう思うのに、強く拒めないのは何故なのか。 「ぁあっ」  自然と洗面台に手を突いて、そこに体重を預ける。  徐々に上がる息の中、鏡に映る私の首筋に――赤い痕があるのを視線が捉える。 (これは……世にいう、キスマーク……?)  所有の証とか、そういう奴……なん、だよね?  そう思う私を他所に、私が抵抗していないと気が付いたのか、丞さんの手の動きが大胆になる。  形を変えるほどに乳房を揉みこまれて、時々乳首に触れられて。身体中が熱を持って、口から零れる息は恐ろしいほどに色っぽい。 「あ、た、すく、さんっ……!」  ダメだ、ダメだ。そういう意味を込めて首を横に振るのに、彼には全く通じていない。  それどころか、彼は私の身体にさらに覆いかぶさってくる。まるで、逃がさないと言いたげな行動だった。
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