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「ところで、だが。香坂さんは、丞のどういうところが好きだ? この男は無愛想だし口下手だしな。気の利いたことは出来んだろう」
「……いえ、そういう、ことでは」
旦那さんも奥さんも、勘違いされている。
私は丞さんの彼女でも何でもない。ただの部下であり、一夜を共にした仲というだけだ。……後半は、口が裂けても言えないけれど。
「あの、センパイ。俺がいつ、彼女を恋人だって紹介しましたか?」
「なんだ、つまらん。お前の人生初の恋人を祝ってやろうと思ったのに」
旦那さんがつまらなさそうに唇を尖らせた。……このお人、丞さんよりも年上なのに。何処か仕草とか、諸々が子供っぽい。奥さんのほうがしっかりしているのではないか。そう思えるほどだ。
「……それと、先ほどから余計なことばっかり口にしてますけれど」
「事実だろう。お前に女の陰があったことなど、俺が知る限り一度もない」
はっきりと告げられた言葉。私は丞さんに視線を送る。彼は気まずそうに視線を逸らした後、こくんと首を縦に振った。
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