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 恋って、サイダーみたいにもっとパチパチキラキラしてて、素敵なものだと思ってた。  夏休み目前の教室で、いつものメンバーとどこに遊びに行くかを話してたその日、それは私の目の前で弾けた。花火大会は海岸線沿いの、いつもの自販機の前で待ち合わせ、くらいまで話してたところだったと思う。  あ!と声を上げた茜が立ち上がって、斜め前の席にいた、達樹くんに声をかけた。 「ねえ達樹くん!夏休みで予定空いてる日、教えてくれる?」 「……なんで?」 「そりゃあ、遊ぶ予定入れたいからに決まってるじゃん!あ、部活とか忙しい?」 「んー、まあね」  サッカー部は夏も忙しいらしいのは、なんとなく去年から知っていた。迷惑かけたくないなって、初めから諦めていた私を置いて、茜は躊躇いもなく彼の前の席に座って、じっと彼の目を見つめる。 「なんで俺?今まさにそっちで、遊ぶ予定立ててたんじゃないの?」 「なんでって、達樹くんとも会いたいからだよ」 「だから、なんで俺なの」 「だって好きだもん。達樹くんカッコいいし、良いやつだし!」  きゅっと目を細めて口角を上げて、茶化すように言う茜の言葉に、私はただ口を、少しまぬけに開けて見つめるしかできなかった。  誰かへ素直に「好き」って伝えることが、こんなにもズルいことだって知らなかった。  茜の言う好きが、なんてことないように教室の中に溶けていくのが分かって、心に暗雲が立ちこめる。彼女の軽々しい好きは、達樹くんを試していたのがわかったからだ。なんというか、まるで友だちに言うような、友好的で親しみを込めた、それ以外の他意なく見える「好きだもん」。ちょっとでもこっちを見てほしい、なんて魂胆が、彼女のオレンジ色のチークに滲んでいるのに気づいたのはきっと、私だけだろう。  もしも達樹くんが「それはどうも」なんて、その魂胆に気づかずに返事をしなければ、この空気は途端に色を変えていたことだろう。反応を見て脈がなければ、友だちの好きだよ、本気にしないでって、逃げられる。そんな告白。きっと、返事の具合が悪ければ茜は、彼を悪者にでもしたんじゃないだろうか。それぐらい、曖昧でズルい言い方に聞こえてしまったのだ。 「茜が好きな人って、ひょっとして、達樹くんだったのかな」 「……かもね」  恋バナもするような距離の友人だから、なんとなく、そんな気はしていた。  彼女の話の中に見え隠れする想い人の影は、どこか達樹くんとそのシルエットが似ていたから。笑顔が眩しい人、快活で、でも涼しげな夏の似合う人。聞けば聞くほど、私の思い違いであってほしいと思っていた。けれどついに、その日から茜は、私にとってのトゲ付きライバルになってしまったらしい。自分の好きな人の名前を出して、牽制する勇気もなかった私には、彼女の行動に口を出す権利も何もないのだが。
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