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クリスマスローズ
花らしい色味を探せば縁に引いた細い紅だけと言う所がまた、遊びに疎い彼らしかった。奥を覗かせない薄緑色の瞳に、真面目な性格を愚直に映してしまっている。
端正な横顔が浮かべているのは、どの感情にも似つかわしくない自然体の無表情で、彼は、冬に飲まれず地面に積まれた黒い落ち葉の山を見つめていた。
クリスマスローズ。
晩冬の花。
過ぎ去った季節の名前を背負いながら、新たなる年に花を咲かせる。狂った時間軸で生きることを定められた者。
朽ちてゆく葉の言伝を聴いていた。
誰にも明かせなかった彼らの言葉を聴いているのだ。
それが彼の役割なのだと、春の短い薄暮が言う。
積み上げられた無数の枯れ葉が腐葉土なんぞに化けてしまわぬよう、雪解け水に流しきれなかった枯れ葉たちの最期の念を吐き出させている。
さて、何を聴いているのだろうな。気にはなるが、いくつも年を越えて生きる人間なんかが聴いて良いものでは無いのだろう。
ここは去年に取り残された者達にとって最後の居場所。
クリスマスローズ。
冷たい日陰でひっそりと執り行われる、頷くだけのお見送り。
題名『笑わない花』
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