魔法の食パン

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魔法の食パン

 SNSは手の空いた時に、暇つぶしを兼ねて眺めるものだと御園は常々思っている。情報の出所は曖昧で、有益な情報はない。だから友人と連絡を取るためにやむなく開設したLINE以外、SNSのアカウントは持っていなかった。  それが先日、とある事件に関連すると思われる関係者の投稿を見るためインスタのアカウントを取得した。関係者のアカウント名はゆきにゃん、本名は三宅優樹菜。人気のママインスタグラマーで、最近第二子を出産したばかりだ。インスタのコメント欄は第二子出産を祝うものに加え、インスタで見せる優しいママの表情に「ゆきにゃんがお母さんなんて、お子さんたちが羨ましい」なんて言葉もあった。  だが御園は知っている。  優樹菜は単独で夫の不倫相手を脅迫しに行くことができる女である。身重の身体をおしてといえば聞こえはいいかもしれないが、実際は身重であることを盾に迫りに行ってのだと御園は睨んでいる。  人目がある路上で若い女性と身重の女性が言い争い、身重の女性が体調が悪いような仕草をすれば道行く人は当然、身重の女性を介助するだろう。言い争っていた若い女性の方には「相手は身重なのに配慮が足りない」と非難の目を向ける人もいるかもしれない。  それが優樹菜の狙いだ。  喧嘩を売ったのは自分でも身重である以上、非難されるのは相手の女だ。足早に街行く人たちは誰も最初から言い争いの現場を見ていない。優樹菜の挑発にのせられた女が、ヒートアップして優樹菜に手を上げたら最後だ。優樹菜の思惑通り、優樹菜が勝つ。  だが相手の女、香織は優樹菜の思惑に載せられることはなかった。自分の勝利を確信し、優樹菜が悠々と帰ったあとで当初から予定のあった横浜へ出向き、玉美や御園たちと出会った後で弁護士を目指すことになった。不倫相手であった三宅と別れ、仕事も辞めて今は弁護士になるため勉強中だ。
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