魔法の食パン

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 自分のスマホを見るより先に有沢が差し出してきたスマホを見る。そこにはセーラー服を着た女の子とモデルのMALIA――読モ妻殺人事件の被害者・山中真利亜――が映っている。優樹菜の面影が残る少女があどけない表情でセーラー服を着ていることから、優樹菜が中学生の頃だろうと推測する。MALIAはモデルらしく、クールな表情のままだ。 「憧れの人、MALIAって。なんでこのタイミングで上げるんだって話ですよね」  添えられた文章を有沢が口にし、御園は自分の目元がひきつるのを実感する。「あの女……」と御園の口から言葉が漏れ、聞き損ねたらしい有沢がスマホから目を離し、「え?」と御園の顔を見上げる。 「あの女、いい気になって喧嘩売りやがって!」 「ちょっと、御園さん」  突然声を荒げて立ち上がった御園をなだめつつ、周りに「すいません」と頭を下げる有沢の姿が視界に入る。 「気持ちはわかりますけど、落ち着いてください」 「落ち着けるか! このタイミングでこんな写真上げるって、明らかに私はMALIAさんの事件を知ってますよって匂わせてるじゃない」 「だから、それが優樹菜さんの手なんですよ。薫くんのお姉さんだって、優樹菜に惑わされそうになったじゃないですか」  有沢の言葉に、頭に上っていた血がゆっくりと引いていく。  そうだ。優樹菜の夫と不倫していた香織も同じだ。優樹菜の言葉に思い余り、優樹菜を刺し殺すのではないかと思ったが、弁護士と話し落ち着きを取り戻したと弟の薫から聞いた。  今の御園も、玉美に八つ当たりしていた香織と同じだ。優樹菜はどうも、相手をその気にさせるのがうまい。それとも引っかかりやすい人間を選んでいるのだろうか。  そうだとしたら、こんな安い挑発に乗せられた自分はまだ警察官として未熟だ。それに比べ、御園より若い有沢は調子のいいところはあるものの仕事に関しては落ち着きのある面を見せる。
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