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電話のため姿は見えないが、永倉が電話の向こうで目を細めている気がしてならない。
御園は物事を合理的に考えてしまう。そこが配慮が足りないと言われてしまう所以だ。
永倉はパン職人である。食品衛生上、清潔感には気を遣うだろう。それだけでなく年頃の女の子がいる家庭に泊まり込むなら、なおのこと気を遣うはずだ。
「目黒さんはいいわけ?」
『信用第一で仕事している元警察官の探偵ですよ。事務所が近くですから、朝帰ってシャワー浴びても大丈夫です』
しれっと元先輩を使うあたり――もしかすると目黒が自ら進み出てくれたのかもしれないが――しっかりしていると言うか、ちゃっかりしている。目黒の方も御園たちが話を持ちこんだことで、応援に入ってくれたのかもしれない。
目黒への支払いは当然、御園のポケットマネーだ。痛くないわけではないが、こうして協力体制が取られたことを考えればよしとせざるを得ない。灯里の血縁上の父親なり犯人が姿を見せたとしても、元警察官二人がいれば御園としても安心だ。
「私も行くわ」
見ず知らずの探偵を名乗る男がいたのでは女性としては不安な面もあるだろう。顔見知りとしても永倉は男性だ。唯一の身内である祖父は高齢である。同性がいた方が心強い面もあるだろう。
『いえ、間に合ってますから』
「間に合ってますって何よ。同性がいた方がいい時ってあるでしょ」
『そうですけどね。御園さんには別のことをお願いしたいんですよ』
何よという声がとがる。
「三宅優樹菜に話を聞くこと」
「明日来るんでしょ?」
『ええ、だから明日に備えて帰って休んでください。こっちにいるのは現役を退いた一般人なんで一日二日ならともかく、何日も緊張状態が続くとしんどいんですよ』
永倉があからさまに疲れを感じさせるようなため息をつく。
「おっさんみたいなこと言って」
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