魔法の食パン

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『朝早いからもう眠くなってくるんですよ。こっちは目黒さんとなんとかしますから、よろしくお願いしますよ』 「わかったわよ」  自称おっさんの永倉との電話を終え、ふと気づく。  永倉と御園は同い年だ。永倉がおっさんなら、自分はおばさんということになる。御園が永倉を「おっさん」と言ったときに否定しなかったのは、御園が同じ年であることを暗喩していたのか。 「あの野郎……」 「永倉さん、ナチュラルに御園さん怒らせるの得意だよなあ」  遠回しにオバサンと言われたような気分になってスマホを握り締める御園に、有沢の呟きは届いていなかった。  ふんわりとカールがかかった茶色い髪の毛は艶々としており、指先にはピンクベージュのネイルが塗られている。まつげはしっかりと上向きで頬にはピンク色のチークが入り、その女性をかわいらしく見せている。  先日第二子を産んだばかりの母親というより、今晩合コンの予定があるOLだと言われた方が納得する。それが三宅優樹菜だ。  昨夜、竹田に連絡があったとおりに優樹菜は読モ妻殺人事件の捜査本部のある警察署に一人でやって来た。その前に永倉から連絡があり、竹田家は平穏に朝を迎えることができたと連絡は受けている。目黒は竹田お手製のサンドウィッチ片手に事務所へ帰り、竹田と永倉はいつも通りに店を開けるそうだ。  優樹菜から話を聞くのは御園と有沢の仕事となった。場所は小さな会議室だ。昨夜、上司に竹田のもとに優樹菜から連絡があったことを報告した際、優樹菜を取調室に案内しようかと提案し、上司に却下されたのは御園である。優樹菜は容疑者ではなく、今の段階では情報提供者に過ぎない。そしてインスタでは有名なママインスタグラマーだ。早々に取調室に入れて、ネット上でとやかく言われないよう上司に進言したのは有沢である。 「今日、お子さんは?」 「夫がみています。育休中なので」
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